公益財団法人 JKA 研究補助 成果報告(2025M-337)
1. 研究の概要
本事業では、次世代金属利用のための方法として、本来的に可逆的な反応プロセスを基盤とした自己集合による金属–有機ナノマテリアルの充実を目指した基礎技術の確立を目指す。とくに近年、バルク金属・ナノ粒子と単原子金属の中間に位置する、数〜数十の精密に構造規定された金属原子からなるナノクラスターが、触媒や電子・光学材料としての利用を見据えて急速に関心を集めている。なかでも貨幣金属(Au, Ag, Cu)クラスターの基本物性は、金属の数や幾何学的配置に鋭敏かつ独特な依存挙動を示すことが明らかとなってきた。よって外部環境に応じた応用性能、および発光や触媒作用によるアウトプットを繊細に調節可能なセンシング技術などへの応用も想定されている。一方で申請者は、金属イオンと有機分子(配位子)を混合するだけで特定の3次元構造が構築される現象(自己集合・自己組織化)を利用した、金属–有機複合ナノ構造の開拓を進めてきた。特に最近、本来は弱い配位ドナーであるアセチレンがピリジンのような従来型の配位ドナーと協働的にはたらき、柔軟かつ複雑な配位自己集合を可能とすることを用いた新たな3次元巨大分子構築法を独自に見出している。最近、本手法をさらに、末端アルキンにより保護されたナノクラスターの構築へも応用することで、結晶中で3次元無限ネットワーク構造をもつ発光性銀ナノクラスターの構築に成功している。
本課題では、ナノクラスターを特定の3次元トポロジーにより組織化する構造モチーフとして、機械的結合により構築されるカテナン構造に着目した。カテナンは、分子同士が機械的に絡み合ったインターロック分子の一種であり、分子機械や機能性ポリマーなどへの応用が進展しつつある。カテナン構造をもつ高分子の性質として、柔軟性や伸縮性などの機械的特性や、有機π電子系ユニットのスタック制御による特異な光物理的性質などを示すことが知られている。そこで、カテナン前駆体構造を反応場として金属ナノクラスターを形成させることで、カテナン構造を結節点としてナノクラスターが組織化された“ポリカテナン–ナノクラスター複合体”を生み出す。3次元トポロジーを解析し、さらにナノ構造を改良してゆくことで、これまでにない金属クラスターの材料機能を引き出すことに挑戦している。
2. 研究の目的と背景
本研究では、独特な構造柔軟性や復元性を付与可能な機械的結合(カテナン構造)に基づいた構造精密な金属ナノクラスターの配列化手法を確立し、電子・光学材料や触媒性ポリマーとして有望な金属–有機複合ナノ構造における金属配置の3次元トポロジーに応じたスマート素材機能の開拓を目指した。3. 研究内容
①カテナン形成部位とナノクラスター構築部位の両方を備えた新規配位子の合成 カテナン形成部位とナノクラスター構築部位の両方を備えた新規配位子の合成を行った。合成品については、溶液状態における核磁気共鳴(NMR)および質量分析を用いた同定を行った。また、次項②③の結果をフィードバックすることで、第2世代配位子も次いで合成するとともに、第3世代の配位子合成も実施中である(論文投稿中または投稿準備中のため、具体的な構造は後日HPにて解説予定)。設計改良においては、本課題の鍵である事業者独自の「協働配位結合」(図1)によるクラスター形成を実現可能であり、かつ機械的結合(カテナン)およびその前駆的段階である「絡み合ったらせん」モチーフを構築可能な分子デザインを追究した。なお、設計にあたっては錯形成部位に関する量子化学計算(構造最適化および励起状態計算)について、計算科学センター(岡崎)(課題番号:25-IMS-C315)を利用し、Gaussian 16により実施することで最適化に資した。
4. 本研究が実社会にどう活かされるか―展望
本事業では、申請者の独自技術である「複数種の金属配位が協働することによる複雑かつ柔軟なナノ構造の自己集合構築法」を活用し、独特な構造柔軟性や復元性を付与可能な機械的結合(カテナン構造)に基づいた金属ナノクラスターの配列化材料を開発することを目指した。電子・光学材料や触媒性ポリマーとして有望視される金属クラスター–有機複合ナノ構造の3次元トポロジーに応じた素材機能の基本技術を確立することで、環境順応性や応答性を備えた金属集積ナノマテリアルの実現への発展させる。これにより、貴重な金属資源を有機化合物との融合により、賢く活用してゆくための新たな手法へと繋がることを期待している。5. 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ
事業者(研究代表者:堂本)は2023年4月に准教授として群馬大学に着任し、新たな研究・教育環境を整備するなかで2025年度、本研究を実施することとなった。着任以前は研究員および助教として、金属–有機複合ナノ構造の構築に関する研究を進めてきたが、現職ではこの流れをさらに機能性材料の開発へと展開するべく、金属クラスター錯体や有機π電子系–金属複合構造体をターゲットとした基礎研究開発を行っている。そのなかで本研究を実施することで、研究に必要な分析装置等の整備を行えるとともに、今後のナノ材料開発に重要な指針を与える知見を得ることができた。機能検証と応用展開をさらに進めることで、新奇機能性ナノ物質を追究する研究を飛躍させることを期待している。6. 本研究にかかわる知財・発表論文等
T. Tsurumi, C. Takahashi, Y. Kasai, H. Hayashi, A. Takai, Y. Oda, M. S. Asano, M. Hada, Y. Nakamura, Y. Domoto*, Preprint at ChemRxiv (2026.8.9).
DOI: 10.26434/chemrxiv.15007212/
ほか、国際会議発表・学生受賞等については、本ウェブサイトの項目[Link]を参照のこと。
