自己集合ナノ分子の創出(堂本)

自己集合とは

 自己集合(Self-assembly, または自己組織化)は、複数の分子やイオンが自発的に集合し、ある秩序に沿った構造を形成する現象です。自己集合は自然界においても、タンパク質の立体構造やDNA二重らせんの形成などに広くみられれ、生命現象や自然現象を織りなす「かたち」と「機能」の源となっています。このような自己集合を人工系に応用することで様々なナノテクノロジーが発展してきましたが、特に近年、適切にデザインされた有機配位子と金属イオンの自己集合を制御することで、望みのナノスケール構造を構築する方法論(配位自己集合)が盛んになっています。
 我々はそのなかで、特に炭素–炭素不飽和結合のひとつであるアセチレン(アルキン)と金属イオンの配位結合形成に着目し、以下のような研究を展開しています。

3次元トポロジー分子群の構築・変換と機能開拓

 アセチレンが金属と織りなす柔軟な配位結合が他種結合と協働すること(アセチレン協働配位)を見出し、タンパク質などにもみられる「分子絡まり (Molecular entanglement)」などと関連した複雑な秩序構造を示す3次元トポロジー分子群を精密構築、さらに動的に変換するための手法開発を行っています。また、SPring-8を利用した放射光X線解析など、種々の測定手法によるナノ構造の性質解明を進めています。

アセチレン協働配位を活かしたナノマテリアルの創出

 アセチレン協働配位を応用することで、従来にない構造や性質を示す金属ナノクラスター集積錯体の開発や、新たな3次元π電子系の機能開拓を目指した研究を行っています。例えば最近、豊富な光物理的機能や触媒作用などから注目されている銀ナノクラスターが、アセチリド保護と銀–ピリジル結合のシンプルな相互配位デザインによって結晶中で3次元的にネットワーク化されることを見出しました。銀クラスターに特有の発光特性もネットワーク中においても維持されていることがわかり、現在、細孔性結晶への設計展開などを進めています。またさらに最近、特定の個数のナノクラスターをディスクリート組織化する手法も開拓しており、協働配位の織り成す分子トポロジーの妙とクラスター機能の融合を目指した研究に取り組んでいます。